機械の信頼性が向上するにつれて相対的に人間のエラ−が目立つようになると、 可能な限り人間の関与を排除するシステム設計が試みられる。 しかし、 原子力プラントや航空機などの大規模複雑系では、 システムの稼働が見込まれる将来の期間中に発生しうる事象を設計時点で網羅することは不可能である。 設計で予測できなかった想定外事象が発生すれば、 それへの対応は必然的にオペレ−タ(人間)に頼らざるをえないため、 排除されるべき対象であった人間の存在は不可欠となっただけでなく、 存在の意義は逆に増大した。
一般に、 大規模複雑系の状況認知・推定、 適確な判断、 迅速な操作は困難を極めるため、 人間を支援する様々な自動化システムやヒュ−マン・インタフェ−スの改善に多大な努力が払われてきたが、 その研究も、 いま新たな困難な課題に直面している。 例えば、 1992年ストラスブ−ルでのエアバスA320機墜落に代表されるような、 情報処理に関わる人間の負担を軽減するハイテクの多機能インタフェ−スによって逆にヒュ−マンエラ−が誘発される問題、 1994年名古屋のエアバスA300-600R機墜落に見られるような、 人間を支援するはずの自動化システムが人間との間で不整合を引き起こす問題などがそうである。
研究内容認知システム科学研究室では、 人間とコンピュ−タの役割分担・決定権の相互委譲を柔軟に行う、 新しい「人間中心の自動化」原理を開発するものである。 すなわち、 知識や情報が欠落しがちな大規模複雑系において緊急事態が生じたとき、 知識・情報は不確実であり、 状況認知・判断・安全制御を行うために許容される時間は短く、 様々なエラ−が発生し得ることから、 直面している状況に応じて人間(群)とコンピュ−タ(群)の間でタスク、 責任、 決定権を適応的かつ動的に分散させる人間中心の自動化原理を開発するとともに、 その実現に必要なマルチメディア情報制御システムを構成する。 具体例に則して言えば, 本研究で開発しようとするシステムは, つぎのようなものである。
TARAまた、 上記研究の一部は、 筑波大学先端学際領域研究センター・マルチメディア情報研究アスペクトにおいて、 情報科学、 認知心理学、 システム工学、 原子力工学、 航空工学、 人間工学による学際研究を遂行中である。 研究プロジェクト名ならびに研究組織はつぎのとおりである。
プロジェクト名 | 状況適応分権協調構造を持つ 次世代「人間中心の自動化」のための マルチメディア情報制御システムの開発研究 |
〔研究組織〕
プロジェクトリーダー | 稲垣敏之 | 電子・情報工学系・教授 |
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リサーチ・リーブ教官 | 稲垣敏之 | 電子・情報工学系・教授 |
リサーチ・リーブ支援教官 | 米沢直記 | 電子・情報工学系・助手 |
客員教授 | 高橋 宏 | 日産自動車電子情報研究所シニアリサーチャー |
研究員(学内) | ||
海保博之 | 心理学系・教授 | 板野肯三 | 電子・情報工学系・教授 |
西原清一 | 電子・情報工学系・教授 | |
和田耕一 | 電子・情報工学系・教授 | |
古川 宏 | 電子・情報工学系・助教授 | |
研究員(学外) | 田中健次 | 電気通信大学大学院・助教授 | 伊藤 誠 | 電気通信大学大学院・助手 |
大橋 仁 | 全日空総合安全推進委員会・副委員長(H12度まで) | |
酒井正孝 | 全日空総合安全推進委員会・副委員長(H13度から) | |
近藤貞雄 | 全日空総合安全推進部・部長(H12度まで) | |
十亀 洋 | 全日空総合安全推進部・部長 | |
石橋 明 | 日本ヒューマンファクター研究所・室長(元全日空・先任機長) | |
前田荘六 | フェアリンク総合安全推進会議事務局長・機長 | |
田中敬司 | 独立行政法人航空宇宙技術研究所・室長 | |
松岡 猛 | 独立行政法人海上技術安全研究所・部長 | |
沼野正義 | 独立行政法人海上技術安全研究所・室長 | |
河野龍太郎 | 東京電力・原子力研究所・主管研究員 | |
N. Moray | 英・University of Surrey, Dept. of Psychology, Professor | |
T. B. Sheridan | 米・MTT, Dept. Mech., Engr., Professor | |
R. Parasuraman | 米・Cathoric Univ. of America, Dept. of Psychology, Professor |